Fate/Another Labyrinth
探求者としての魔術師というのは、およそ過去の原点、始まりの一に向かって進むものだ。その行いは科学ではなく魔術だからこそ可能となるものでもある。
根源の渦、全ての始まり。
魔術師を名乗るならば、それを追い求めるのは当然。例え、その道がか細くても。
「例えば時計塔地下に存在する竜種の死体が基となった霊墓アルビオン、例えば上級死徒コーバック・アルカトラスの造り上げた迷宮。それら一種の異界と呼べるものには、根源に至るための道をより太くするための触媒――呪体が採れる場合がある」
「それが真っ当な魔術師が、私たちに依頼する理由かしら」
「ま、愛歌……」
明るい薄青いワンピースを着た彼女は、ゆったりとした所作でこちらに目を向けた。それが敵愾心からなのか、それとも別の思惑か。
私は彼女のまるで全能の如き瞳の虚に吸い込まれそうだった。
押し止めようとするのは、橙色の髪を、ポニーテールで纏めてる少女。髪に魔力を留める呪術に頼っているあたりは女性魔術師か。青いダウンジャケットで実行部隊なのだと分かる。
命を張る魔術遺跡探索者にしては、気弱。
確かに実績こそめざましくはないが、生存率の高い探索者という最も重要な条件に引っかかった以上は必要な素質なのだろう。
「目標は神代の遺物、北海の
「あら、あなたは神代の幻想種と相対して、勝てる気でいるの?」
その言葉は全能の少女からすると、値踏みですらなかっただろう。
「魔術礼装を使用した私の魔術回路ならば二撃。二回分だけ神代のものと同等の魔術を発揮できる。対魔力を持とうと突破できる類のものだ」
「二回も、神代の魔術を……!?」
「降霊術なら、
驚いた少女は確か、ノーマ・グッドフェローと呼ばれていたはず。
対して動じもしない方が沙条愛歌。
ロードの分家としての自信でもあったのだが、こうも明暗が分かれるとは。
「これは魔術協会時計塔降霊科のロード・ユリフィス直々の特命です」
金髪の、柔和な笑顔が似合う青年だった。外見こそ白馬の王子様、理想の姿に見えるが実態はそうでもないというのを沙条愛歌は知っていた。
根源接続者。全知全能の人。沙条愛歌こそその人である。
ならば魔術師の頂点であるロードの家系の分家、パルジファル・ハイネ・ソフィアリ程度を歯牙にかける必要があるだろうか。
しかし、戯れに付き合うなら構わないか、と思えるぐらいにはこの男、顔が良い。
(まあ、ノーマにはいい経験にはなるかしら?)
沙条愛歌とノーマ・グッドフェローはかつて憑依し合った関係である。それはつまり根源接続者の――極度に劣化したとはいえ――霊媒となったということである。
妖精の眼、グラムサイトが宿っていることが、ノーマには根源に至る可能性の発露として愛歌には映っていた。
故に、師弟関係。ノーマを根源に到達できるように教え導くことが、娯楽なのだ。